2015/02/19
最終章・「希望」
前が見えないほど強い風に砂煙が舞い上がり、既に食べるものも無く歩き続け、やっと辿り着いた叔父の店はもう残骸となっていた。喉が渇き、もう歩くのもままならない。
いっそこのまま死んだ方が良いのかも知れない、そう思っていたところへかつて叔父の家で働いていた張夫婦が現れた。
「久世山さん死なないでください」と言って差し出された包みは粟のおにぎりだった。
だが張夫婦だとてみすぼらしい形(なり)で、子供も亡くしていた。
どう見ても腹が一杯のようには見えなかった。
開いたおにぎりにどんどん砂埃がかかって行く。
日本人の為にこんなひどい目に遭いながら、どうして彼等はこんなにも優しいのだ・・・。
その瞬間、何故か背筋に力が入り、生きようと思った。
一人息子の春彦とその妻が死に、彼等の長男宗一郎と妻、子供の宗春もまた棺になって家に帰ってきた・・・。
泣きもせずに唯立っている緑子が、目が見えないはずなのに自分を下から見上げ、そして手を差し出してくれた。
涙が零れ落ちるのを必至でこらえ、幼い緑子の為にも生きようと思った・・・。
緑子の葬儀が終って4日目の朝、その日久世山は少し調子が良かったのか、僅かだが食事に手をつけ、それが下げられるとずっと窓から遠くの海を見ていたようだった。
10時ごろ、朝と同じ姿勢で海を眺めている久世山を不自然に思った看護士が声をかけたが返事が無い。
久世山宗弘は眠るように穏やかに息を引き取っていた。
昭和24年8月・・・。
庄内の西山農場にいた久世山は、ひょっこりと石原莞爾がこちらの道を歩いてくる事に気が付いた。
「あれ、先生は重体だと聞いてたが、良くなったんだな」と思って迎えに行くと、石原は上機嫌でイモと酒を持って言うのだった。
「久世山さん、日本は廃墟になったが、必ずまた立ち上がるぞ」
「それと、世界最終戦争論の修正に更に修正を加えたぞ」
「どんな修正ですか?」
「人類はきっと衝突を回避する」
「衝突を止める人間がきっと現れる気がするんだ」
「久世山さん、そうは思わないか・・・」
「ああ、そうですね、私もそんな気がします」
「久世山さん、わしは今日は何だか嬉しい」
「近所の農家からイモを貰ったから、これをふかして一杯やろうじゃないか」
「ああ、それはいいですね・・・」
石原はそう言って先に家の中に入り、それに続いて久世山も家に入り、静かにその縁側の障子が閉まる音がした。
「ごめんね、R186641」は本編を以て終了致しました。
たわいも無いヨタ話を文字ドラマと称して記載してしまいました事、
深くお詫び申し上げる次第です。
最後まで読んで頂いた方には、謹んで御礼を申し上げます。
では皆さん、お体に気を付けていつまでもお元気で・・・。
いつかまたお会いしましょう。
有り難うございました。