2009/03/31
バロックは部屋の灯りを消して
それにしても生きていると金がかかる・・・長男のバス定期に6万円、教科書が8万円、長女は中学生だから余り必要なものはないが、これに農業用の種モミ、肥料、土や消毒で40万円・・・大した稼ぎがないにも拘らず、どうしてこうも金は出て行くばかりなのだろうと落ち込んでいたら、懐かしいスピッツの「チェリー」がラジオから流れてきた。懐かしい・・・思わず窓を開けて少し冷たい空気を入れ、青空を眺めた。
「君を忘れない・・・」・・・聞いていると少し目が潤んできた・・・そんな辛い訳ではないが、なぜかこの曲を聞いていると自分がズレて来ていることが分かる。
何をやってるのかな・・・そんなことを思うのだが、生活に追われ働いてばっかり、目が醒めれば厳しいことしか起こってこないし、そんな話ばっかりで、自分の考え方までセコクて姑息になって来ているような気がする・・・。
暫く仕事の手を止めて、昼に入れた冷たくなったコーヒーを飲み、空を眺め続ける・・・。
やがて一番いいところで、ディスクジョッキーの女性のトークが始まり、無常にもせっかく浸った爽やかな気分はまた現実に引き戻されるが、それにもめげずに今度はCDをかけて、ついでに「空も飛べるはず」まで聞いてしまった。
だがどうしてスッピツのアルバムは、アルバムの中でだんとつ1位の曲があって、他の曲は割りとそうでもないのだろう・・やはりこれも販売方針なのだろうか。
夜になった・・・、今夜は曇り空で星も見えないが、部屋の電気を消してまた窓を開ける・・・今度はバッハの「G線上のアリア」をかける・・・バッハの音楽は「壁紙」みたいなもので、それは規則的に同じような音階が繰り返され激動こそないが、静けさがあり、綺麗な女性が長いドレスの裾、そのレースを引きずって階段をゆっくり上がるような崇高さがある。
今度は入れたてのコーヒーを口に運び、ゆっくりと味わいながら聞き入る・・・思わず自分の力のなさに号泣しそうになるが、昼間はスタッフがいるからその手前、我慢もしやすいのだが、こうして1人だと本当に泣きそうになる自分と必死で戦わなければならない・・・。
今まで出会った人達のこと・・・みんな「お前には力がある・・・」と言って励ましてくれたのに、まだ何もできていなければ、何も形にしていない・・・そのことが悔しいし、申し訳ないのである。
だが「済みませんでした」と言って泣いてしまえばそれは負けだ・・・みんなの気持ちを裏切ることにしかならない・・・まだ終わってはいない、勝負はこれからだ、だから泣くことはできない・・・。
やがてバッハが終わり、今度はパッフェルベルの「カノン」が流れてくる・・・この曲はある意味私の「テーマ曲」みたいなものなのだが、始めて聞いたのは小学6年生のときだった。
「こんな綺麗で、優しい音楽があったのか・・・」と思ったものだが、ジェノバに旅したとき仲良くなったデザインスクールの学生たち数人が、最後日本へ帰るときに、私がこの「カノン」が好きだと言うことを知って、3人編成の楽団を連れてきてくれ、聞かせてくれた思い出の曲でもある。
「世界は狭い、やがて力があって才能があるならきっとまた会えるだろう・・・いつかまた会おう・・・」そう言って別れてもう20年以上経ってしまった。
胸がかきむしられるようだ・・・生きるのに必死で何もできなかった・・・いつ彼らとの約束が果たせるのか分からない・・・でもこの命がある限り諦めるわけには行かない。
死ぬまでには何とかしなければ・・・私はだからいつも焦ってきたし、恐らくこれからもそうだろう・・・。
「カノン」はやがて終わりに近づいた・・・
私は電気を付けて、壁に寄りかかりまたコーヒーを口に運ぶ・・・この世で成すべき自分の責任を全てクリアしたら、いつか自分の為に自分を使わなければ・・・と思う。
さあ、明日もまた頑張るぞ!