2009/05/31
おーい、誰かいるか・・・
昭和のSF界にショート・ショートと言う1つのジャンルを築いた天才、星新一の作品にこんな話がある。ある日突然、地面に1つの丸い穴が開いているのが見つかり、深そうなので「おーい」とか叫んでみたが反響音が返ってこない。
ついで小石を投げてみたが、これもどこまで行っても落ちた音が返ってこない。
不思議な穴は底なしだと言うことになり、初めは遠慮がちに、その内どれだけ棄てても埋まってこないので、人々はどんどんゴミや産業廃棄物を棄てるようになっていき、ついには放射性廃棄物なども棄てられていくようになった。
そしてどこか遠い国のビルの屋上、一人の男性が屋上の空気を吸っていると、空から「おーい」と言う声が聞こえてきて、変だなと思っていたら、今度は小石が飛んできて頭に当たる・・・・。
1962年1月の事だ。
その夜事件現場付近で寝ていた住民は、夜中過ぎにゴーっと言う竜巻のような音と、まるで鋭い物が空気を切っていくような音で目を覚ましたが、この音はたった1回だけだったので、気にはなったものの、みんなまた眠りについた。
だが翌朝、さすがにあの音は尋常ではなかったと思った近くの農場経営者は、昨夜音がした場所の近くまで行ってみたが、そこで奇妙なものを見つける。
なんと直径50cmほどのきれいな星型の穴が開いていたのだった。
その星形はまるでニンジンを金型で切って作ったような鋭さがあり、しかも底は見えず、かなり深そうな様子で、農場経営者は腕を入れてみたが、そのようなことで確認できる深さではなかった。
そこで農場経営者は付近の他の住人にも知らせ、皆で調べてみたが、石を落としてみても一向に底に着いた音はしかった。
そればかりかロープの先に石を結んで、更にロープを何本も繋いでたらしてみたが、これもどれだけロープを繋いでもどんどん入っていくだけだった。
つまりこの穴は底なしだったのである。
さすがに恐くなった住人たちは警察に連絡したが、いくら警察でもこんな穴を見たことはなかったし、何の見解もできなかったが、取りあえず長い棒を差し込んでみたものの、結果は住人達の方が先に分かっていた。
それでは今度はと、長い巻きがある針金をくりだしてみたが、やはり一向に底には行き着かなかった。
「何だこの穴は・・・」困り果てた警官たちは本署に連絡、数日経って数人の科学者を交えた調査隊がやってきたが、どれだけの調査をしたのかは不明ではあるものの、一応の見解はこうだった・・・。
調査の結果は「地盤沈下現象」、こんなきれいな星型の、しかも深さがどれだけかも測れないほど深い地盤沈下?、住人はもとより、この見解には警察当局も納得はできなかったが、そうこうしていると、今度は軍隊の車がやってきて穴の周囲を広い範囲で立ち入り禁止にしてしまい、中で何かやっている様子だったが、ここまで来ると一般住民は「相当まずいことになってるらしい・・・」と感じたのか、この付近には近寄らなくなり、その話も何となくタブーのような感じになっていった。
暫くして軍隊もこの穴の科学的検証を発表したが、なぜか先の科学者たちの調査発表と同じ「地盤沈下」で、しかも今度は軍隊側でしっかり穴を埋めたとまで発表され、この穴の証拠は無くなってしまったのである。
そしてこうした穴は実は1つではなかった。
同じ晩にホランドとハンプシャーの2つの地点で同じものが発見され、いずれも似たような経緯で最後はイギリス軍が穴を処理してしまっていたが、当初イギリス軍はこの穴をソビエトが打ち上げたスプートニクと関係があるのではと考えたようだ。
この事件から1年後、非公式の見解ではあるが、この穴の処理を現場指揮したという軍関係者の話を、1人の記者がメモに残していて、そこには穴は確かに底が無く、もしかしたら宇宙から飛んできた何かの生物でもいるのではないかと言う意見が出され、放置しておくと危険だということになり、周囲を深く掘って鋼材を渡し、コンクリートで穴に蓋をするように固めて、その上から土を乗せて周囲と分からなくしたことが記されていたとの事だが、ことの真偽は分かっていない。
現在ではその場所すら明確には分からなくなってしまったらしいが、その内いつか空の片隅から石が落ちてきて、繋げられたロープが現れなければ良いのだが・・・・。