201○年9月13日、合衆国国家安全保障会議・・・・。
冒頭、大統領のマリア・クレイトンは秘密兵器として久世山緑子をメンバーに紹介したが、既に沖縄独立、中華連邦成立に携わった緑子の事は国防総省、CIAともに知るところだったので、彼女の会議参加に異議を唱える者はいなかった。
「ではまず、現状の北朝鮮の分析としてミス久世山の意見から聞こうかしら」
「解りました」
「現在、北朝鮮の金正南書記は歩兵部隊での侵攻を考えています」
「理由は?」
「彼にとって国民も兵士も邪魔者なのです」
「戦争に兵士が邪魔者なのかね?」
思わず統合参謀本部議長のロイ・スタンレーは呟いた。
「そうです、北朝鮮の経済は全て書記とその周囲の軍人達によって賄われているようです」
「ですから彼等の意識の中には、食べさせてやってると言う意識が強いようです」
「随分な話だが、北朝鮮の経済は閉鎖され、殆ど貿易が無いし、武器の密輸や麻薬で外貨を稼ぎ、それで国内を賄っているから、そう言う意識なのかも知れないな」
「ミス久世山、侵攻はどこから来るの」
「あくまでも現在の書記の考えですが、京畿北の西からの侵攻のようです」
「あそこは無理だろう」
「科学ガスミサイルを使用し、その後歩兵部隊がソウルを占拠する事を考えています」
「それと同時に歩兵部隊の半分を京畿東の山裾から、同じように科学ガスミサイルを撃ち込んだ後、侵攻するルートの2つを考えているようです」
「細菌兵器のミサイルの可能性は?」
「書記は細菌兵器の管理状態を信用してません」
「だからVX系のガスを使う事を考えています」
「なるほど・・・・」
「だが、その場合すぐに侵攻したら北朝鮮の兵士も命を失う事になるが?」
「書記にとって兵士は消耗品です」
「尚且つ、影響の無い程度で減ってくれれば食べさせる人間を減らす事が出来ると言う意識です」
「信じられん・・・・」
ロイ・スタンレーは思わず腕組みした。
「日本への核攻撃の可能性は?」
「これがはっきり見えないのですが、今の書記の意識を探ると、核攻撃の後、韓国侵攻を考えているようです」
「一応日本へミサイルが飛んで来た時点で、平壌空爆の大義は立つか・・・」
「だが、それだと我々は日本への核攻撃を防御しながら、北朝鮮の韓国侵攻を阻止しなければならなくなる訳だな・・・・」
「ミス久世山、有り難う、あなたはここまででいいわ」
「後は私とおじ様たちの相談よ」
「暫くホテルで待機していて」
マリアはそう言って緑子を退席させたが、ここから先はちょっと日本人や元日本人には聞かせられない話が始まるのだろう事は容易に理解できた。
マリアから次に連絡が入ったのは7時間後、既に夕方近くなっていたが、もう一度大統領官邸に呼ばれた緑子はそこで意外な人物に出会う。
何とアレクセイ・ボノヴィッチが来ていたのだった。
「中華連邦国防卿は黄海から北朝鮮を攻撃する事を提案し、上海の北の既存基地をアメリカ軍に貸してくれると言う事でおいでたのよ」
「久世山さん、お久しぶりです」
「北京を発ってほんの数日だけど、まるで何年も前の事のようです」
緑子はボノヴィッチと固い握手を交わした。
「合衆国安全保障会議のプランも悪くないけど、アレクセイ国防卿のプランもとても面白い」
「2つのプランを状況に併せて実行していく事にしようかと思うの」
「中華連邦でもアレクセイ国防卿の作戦は素晴らしいものでした」
「心強い味方が増えましたね」
「中華連邦は成立しましたが、北朝鮮に残る共産党の残党は中華連邦の責任でも有ります」
「朱栄陽国家評議会議長はその事をとても気に病んでいて、私を派遣しました」
「合衆国に従いますので、どうぞ私を使ってください」
「今、世界最強の2人が合衆国に揃った訳ね、これじゃ北朝鮮も勝ち目は無いわね」
「大統領、私は確かに合衆国と、わが国、周辺諸国の安全と平和、それに勝利の為にここに来ましたが、もう一つ、北朝鮮の人民と下級兵士達の命を何とかして助けたい」
「その思いも有って、ここに来ました」
「どうか、指導者はともかく一般人民と90万人の兵士の命を救ってやってください」
「お願いします」
「勿論よ、悪戯に人の命を奪えば良いと言うものではないわ」
「国防卿の仰るように敵も味方も死者や被害が少ないに越した事は無いわ」
「初期作戦には是非国防卿の提案を使わせて頂くわ」
既にボノヴィッチとマリアはかなり長い時間話していたようで、ボノヴィッチは早々に挨拶をして退出して行ったが、マリアと2人きりになった緑子にマリアは尋ねる。
「この間、16・7日後までは見えるけど、その先が見えないと言ってたわね」
「ええ、今もそうですが・・・」
「そう・・・」
「あなた暫く合衆国に滞在してはどうかしら?」
「はあ・・・、しかし曽祖父の容態が悪く、一度琉球に帰りたいのですが、ダメですか」
「強制的にどうこうはしたくないし、理由も言えないんだけど、あなたには合衆国にいて欲しいのよ」
「理由とは、もしかしたら私の命の事ですか」
「知ってたの?」
「ええ・・・・」