2009/04/21
過去から来た女
岐阜と愛知県境付近の山林・・・木材伐採に訪れた業者が、少しくぼんだ地形のところで見つけたものは、何と白骨死体だった・・・・、直ちに地元警察は鑑識係を動員、その結果被害者は女性、推定年齢20歳前後、そして少なくとも死後5年は経過していると鑑定された。自殺か他殺は判定できなかったが、警察は一応他殺の線で捜査を開始した。
まず身元の確認だが、過去5年間に渡って捜索願の出ている20歳前後の女性を重点的に調査したが、聞き込みも含めて有力な情報はなく、書類からも身元が特定されるような資料が見つからなかった。
そして捜査は被害者の歯型から歯科医院での治療歴が無いか・・・と言うことになったのだが、ここで捜査員たちは奇妙な事実に直面する・・・、愛知県内A 町の歯科医院のカルテから、発見された白骨死体の歯型と一致する歯型を見つけたまでは良かったのだが、念のため歯科医院に白骨死体の歯型を見せると「間違いない、私が歯を入れた・・・」と証言、さあ・・・これで犯人に繋がる手がかりが探せるぞ・・・と思った次の瞬間、その歯科医院がとんでもないことを言うのである。
「この患者、平井昌江さん(仮名)は、そう言えば10日ほど前に最後の治療に来ました・・・」歯科医院はポツリとそう言うのだった。
10日前に元気だった女性が、5年前に死亡して白骨になっている被害者と一致するはずが無い・・・、だがおかしなことはこれだけではなかった。
平井さんの身元を洗い、彼女の生前の写真を発見し、白骨死体と照合してみると骨格は見事に一致、また更に彼女はどうも夜の仕事をしていたようだと言う証言から、他の警察署にも確認したところ、「あの女なら白骨死体が発見される2日前、売春容疑で取り調べた・・・」と言うK署の捜査員の報告まで出てきたのだ。
とすると・・・2日間で彼女は白骨になったとしか考えられなくなってくるが、勿論死体は焼けて白骨になったのではなかったし、何かの薬品で溶かされたわけでもない、間違いなく5年間の風化を得ていたのだった。
「そんなバカな・・・この死体は絶対死後5年経っている」警察は死体を何度も精密検査するが、死後5年と言う事実は覆らない、「みんなが会ったとか、K署で調べた女と言うのは彼女の双子か何かで、彼女は5年前に死んでいたんだ」・・・理不尽な現実に、こうした推察を加える捜査員も出て来た・・・が彼女には双子はおろか、姉妹はいなかったことが判明した。
またこうなると、歯科医院のカルテはどうなんだ・・・と言う話も出てきたが、ついには犯人は歯科医で、カルテは捜査を混乱させる為のトリックでは・・・と言う話まで出てきて、捜査は完全に行き詰まり状態になった。
勿論歯科医がカルテを偽造しようがしまいが、K署の捜査員までが2日前に会って話をしている訳だから、歯科医がカルテなど偽造しても意味が無いことが分かるし、そもそも平井さんが自殺だったのか他殺なのかも分からず、こうなると捜査は完全に混乱していったのだが、その後もこの事件の捜査は続けられるも、結局永遠の謎として殺人事件の時効をむかえ、当時捜査に加わった捜査員も「さすがにこの事件だけは、どう言って良いものか・・・」と口を濁して終わることになってしまった。
昭和40年代中頃、実際にあったこの事件。
死後5年の白骨死体が10日前に歯の治療に歯医者を訪れ、2日前にK署捜査員が取り調べ、歯形は本人に一致・・・これをどう説明したらいいだろうか。
彼女は確かに死体になってしまったが、5年前から時間を越えて旅する女になった・・・と言うことだろうか・・・
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