世紀の大発明

「おい、お前も来ていたのか」
「よー、ロデリック、久しぶりだな、何だお前のとこにも案内が入っていたのか」
「ああ、俺が実際受け取ったわけではないんだが、ポストに投げ込まれていたらしいんだ」
「そうか、うちもやっぱり同じだが、それにしても世紀の大発明って一体なんだろうな」

1916年4月16日、この季節にしては少し暖かすぎる陽気ではあったが、ニューヨークの外れ、ファーミンデールの町の一角では時ならぬ人だかりができ、周囲の人たちも巻き込んで大変な騒ぎになっていたが、その集まっている多くの者は、どうやら新聞記者らしかった。

この数日前、ニューヨークにある殆どの新聞社に投げ込まれていた案内書、そこには「今世紀最大の発明をしたので、是非ごらんあれ」と書かれており、その集合場所が、このファーミンデールの「エンリクト研究所」と言うことになっていたからだが、いかんせんそこにはペンキの剥げたボロ屋が建っていて、その戸口には自分で描いたのだろうか、下手な字の看板が斜めになってかかっている、そんな状況だった。

記者たちは今か今かと、この建物から人が出てくるのを待っていたが、そうした賑やかな気配を感じたのだろうか、やがてゆっくりとその研究所のドアが開き、そこに一人の老人が現れた。

「エンリクトさん、あなたがエンリクトさんですね」、記者たちはその70歳ぐらいだろうか、ドジョウ髭が襟まで伸びた貧相な老人の周囲にドッと詰め掛けたが、その老人はこうした記者たちの問いには一切答えず、手を挙げて皆のどよめきをを制すると、しゃがれた声でこう話し始めた。

「お集まりの皆さん、わしはついに成功した、水をガソリンに変える方法を発見したじゃ、これでの、3・8リットル(約1ガロン)の燃料が僅か1円しか、かからんのじゃよ」
老人はかすかに微笑むと、皆の顔を見回すように眺め、誇らしそうな表情である。

これにはさすがに普段から事件や事故、いろんなものを見聞きしてきた記者たちも唖然だった。
みんな事の次第が理解できずポカーンとなってしまった。

老人はそんな記者たちをしり目に、ドジョウ髭を誇らしげに撫でながら話を続ける・・・。
「では、実験してお目にかけようかの・・・」と言うと、一同を引き連れて裏の空き地まで歩いていったが、そこには中古の自動車が置いてあり、何とこの自動車を水で走らせて見せると言う訳である。

いくらなんでもここまでくれば、先ほどはポカーンとした記者達も、冷静になってきていて、いささかの胡散臭さと怪しさを感じ、ではこの車に仕掛けがないか徹底低に調べることになった。
記者たちは寄って集って車を綿密に調べ始めたが、確かに普通のエンジンとは多少構造が違うものの、少なくとも何かのトリックが仕掛けてあるようには思えなかった。
普通の車だった。

また「ガソリンタンクにガソリンがいれてあるんじゃないか」、と言う誰かの声に、こちらも1人の記者が長い棒をタンクに差し込んでかき回してみたが、棒の先にはガソリンに浸った形跡は見られなかった。
確かにガソリンタンクは空で、二重底でもなければ、別のところからもガソリンを引き込む細工は見当たらなかった。

つまりこの車からはどこからもガソリンは発見できなかったのである。

「気が済んだかの・・・、では皆さん、水を汲んできて頂けるかの、そしてそれをタンクに入れてくだされ」
老人は相変わらず勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、記者たちにそう言った。
早速水が運ばれてきて、記者たちはかわるがわる、それを指ですくって舐めてみたが、確かにただの水に間違いなかった。

老人はさも嬉しくてたまらないと言う表情だったが、やおら内ポケットから怪しげな緑色の瓶を取り出すとこう言う。
「さて、この何の変哲もない水じゃが、ここにわしの発明したガソリン種薬を混ぜる、するとこの水がたちまち代用ガソリンになってしまうんじゃ」

エンリクト老人はそれだけ言うと、その緑色の瓶の栓を抜き、そこからやはり緑色をした液体を2、3滴水の中にたらした。
そしてそれを良くかき混ぜると、水は僅かに緑色を帯びたものになったが、今度はそれをガソリンタンクに注ぎ込む。

「さあさあ、皆さん車に乗ってくだされ」

エンリクト老人はガソリンタンクに水が入ると、記者たちを車に乗せて自分も車に乗り込み、ここでも仕掛けがあるかもしれないと思った1人の記者が、エンリクト老人に代わって車のエンジンをかけたのだが、エンジンはまるで当たり前のようにかかり、まことに滑らか、そして車はスムースに走り出し、あきれて見守る人達を尻目に、ファーミンデールのあちこちを一周してみせたのだった。

このニュースはすぐに記者たちによって記事にされ、ニュースとなって伝わった。
一躍時の人となったエンリクト老人、自動車王ヘンリー・フォードもすぐさま彼のもとを訪ねた。
だが一体どうしたいきさつがあったのかは不明だが、その後フォードとこのエンリクト老人は、互いに相手の中傷合戦を行い、その挙句に裁判沙汰になったのだが、結局エンリクト老人がペテン師の宣告を受け、刑務所に収監される。

その後エンリクト老人は迫害と窮乏に晒され、発明に関してはその一切を明かさず、死んでしまったのである。
享年77歳であった。

もしこの発明が本当だったら、少なくとも人類は100年は早くエネルギー問題を解決していただろうし、中東問題も今ほどこじれることもなかった、はたまた地球温暖化問題も、もしかしたらそれが問題にすらならなかったかも知れない。

そして天才と○○は紙一重とは良く言ったものだ、私はエンリクト老人の発明が本当だったとする方に10ドル賭けようかな・・・・。







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