金縛りを科学する・第1章

私は目を閉じているのか、開けているのか・・・いや目は閉じている。

でもなぜ目を閉じているのに自分の部屋がこうして見渡せるのか、またなぜか外の景色も同じ感覚で見えている・・・どうして、あっ、部屋の戸が開く・・・そして何か恐ろしいものが入ってくる、今に戸が開く、あー、戸が少しずつ開いてきた・・・20センチほど戸が開いた、それはその戸の裏側で私を伺っている。

「怖い・・・怖い」、「わあー、助けてー」・・・だが誰かに聞こえているのか、いないのか分からない・・・それは相変わらず私を伺っている・・・髪が腰まであり顔の半分が潰れ血だらけ、まるで私のせいでそうなったかのような激しい憎悪、恨みの心が分かる・・・その姿は見えない、気配が見える・・・が体が、体が動かない!

これは小学校5年生のときから毎夜「金縛り」に会い続け、大人になってもそれが収まらなかった女性が、中学生の頃毎晩見ていた金縛りのときの様子である。
彼女が「金縛り」に会うようになったきっかけは、始めは些細なことだったようだ。

裏に雑木林がある彼女の家は大体5月ごろから「ムカデ」が家に上がってくることがあり、それも年に1度か2度ほどのことなのだが、いつ来るか分からないため、彼女はこうした季節になると、できるだけ部屋に物を置かないようにし、畳の上を這うムカデの足音に注意しながら眠る習慣になってしまった。

彼女は小学校5年生の夏、夜中に顔の上に妙な違和感を覚え目を醒ました・・・が顔、正確には視界が何かギザギザの物でさえぎられていた。

慌てて視界を遮る異物を取り除こうとした彼女の手は何かにチクリと刺されたが、次の瞬間激しい激痛が走り、手から体の上に20センチはあろうかと思われる大ムカデが落ちて、それは腹から足を次々刺しながら、やがて畳の隙間に逃げ込んでいったのである。

彼女は当時両親と同じ部屋で寝ていたのだが、体の半分を襲う激しい激痛に泣き出し、何がなんだか分からない両親は彼女の手の腫れを見て、ムカデに刺されたことを知ったのだった。

この事件以降、彼女はムカデが異常に恐ろしくなり、寝ていてもムカデが這うようなぱらぱら・・と言う音がするとすぐ目が醒めるようになり、それから程なくして2部屋はなれたところで壁にとまる蛾の羽音が聞こえるくらいになり、最もムカデが家に上がりやすい梅雨時期の雨の日に至っては、雨の音の中に昆虫が動く音まで聞き分けられるようになっていったのである。

そしてこの時から彼女が寝ようとすると後頭部から頭に「がーん」と言うような音が走り、頭全体が痺れるようになって、冒頭のような怖い光景を見る、つまり「金縛り」との闘いが始まっていった。

金縛りには一定の傾向があり、その始まりは、こうした夜中に起こったアクシデントが引き金になっている場合や、何か怖いものを見たことがきっかけになっているケースが多いが、大体小学校高学年頃から始まる場合が殆どで、こうした傾向から男女とも性的な成長過程段階に起こる、精神的な作用かとも考えられるのだが、それであれば時期的に限定されてくるはずだが、こうした「金縛り」体験者の殆どが20代後半まで、調査例は少ないが50代まで続いた例もあり、成長に伴う精神的作用を原因とするには難しいものがある。

金縛りが起こるのは仰向けに寝ているとき、そしてもう眠りに就く直前か、夢から醒めた直後と言う場合が多く、後頭部から前頭部へガーンと言う大きな音が伝わったかと思うと、頭が痺れ「これはまずい」と思いながらもどうしようもなく、そのまま体が動かなくなってしまう。

では横向けか、うつむせで寝ていたらどうか・・・と言うと、確かにこうした寝方では10回起こるものなら、その内3回くらいは抑えれるかも知れない、がそれもある程度の年齢になっていればのことで、中学生や高校生では余り寝方を変えたくらいでは防げない、ひどい場合には壁に寄りかかって仮眠を取ろうとしても「金縛り」になる人もいる。

一般に金縛りに会っている人は、案外金縛りに慣れてくるようで、「あーこれはまずいな」と言うことが分かるようになると、自分で目を醒ましてしまって、回避することができるようになるとも言われているが、そうすればいつまで経っても眠れないことになるので、最終的には3章に出てくるが、究極の境地に達するまでは、金縛りを完全回避することは難しいようだ。

さて頭がガーンとなってからだが、意思はあっても体が完全に動かない・・・と言うより自分が言うことを聞かせられない、コントロールできない状態になるのだが、この時の恐怖は計り知れないものがあり、大声で叫んでいても他の人からしたら、声すらも発していない状態で、誰か気づいて・・・と思っても誰も気づかない。

このとき目が開いているように思うかもしれないが、それは二重夢の状態で、目を開けている夢を見ているのと同じことが多いが、時には目を開けたままのこともあり、この場合冒頭の女性が言うように部屋の内部が見えていながら「気配を見る」ことになっているようだ。

これはどういうことかと言うと、視覚には光を感じてそれを見るのが1つ、夢のように目を閉じていて脳が見させる視覚が1つ、そして最後に体全体が危機に際して感じる気配を、脳が映像化する視覚があると言うことだ。

金縛りの状態はこうした視覚が混線したように現れることから、あらゆる映像が自由自在に眼前に現れる、つまりそのとき最も見たいものを方法を問わず見てしまうのだが、ではそれがなぜ怖い光景なのかと言うと、体が動かず怖い・・・それ以外の感覚が無いから、一番見たくない怖い映像しか選択されていない・・・状態なのである。
こうしたことから自分が考える最も最悪なシナリオが眼前に現れることになるのだ。

これが金縛りに会った時に見る怖い映像をかろうじて科学的に解釈する方法だが、ではそれ以外の原因は無いのだろうかと言うと、例えば100の金縛りの中の30、100人の金縛りの中の5人・・・こうしたものの中には脳が持つ視覚だけでは解説できないものが混じってくる。

こちらは男性の例だが、その日母親に連れられて母親の実家に泊まることになった当時小学校6年生の男性は、夜親戚の人や母親とみんなで、その家の座敷で寝ることになったのだが、他の大人はみんな酒が入っていたのかぐっすりと寝込んでしまった・・・しかし彼だけがなかなか寝付けず、その原因は床の間に飾ってあった「福助人形」にあったのだが、どうも動きそうな気がして何度も何度も確認している間に、頭がガーンとなって痺れ、体が動かなくなったのである。

福助人形と言うのは呉服屋さんとかに飾ってある裃(かみしも)を付けて、お辞儀をした格好のあの人形だが、体が動かなくなったこの男性は怖くて怖くて、こんなことなら死んだほうがましだと言うほどの恐怖にさらされた・・・そして次の瞬間、男性の視界の上の方から、誰かゆっくりこちらを覗き込む顔があった。

男性はここで気を失い、次に目を醒ましたのは朝だったが、何を見たと思うだろうか、それは笑う福助人形だったのである。
男性の視界の上から少しずつ顔に覆いかぶさるように、福助人形が覗き込んでいたのである。

この時男性は大声で叫んだとことを記憶していたが、朝になってこのことを話しても誰も信じてくれないばかりか、あんな大声を出したのに誰も何も聞いていなかったのだ。

そしてこの話には続きがある、この夜を境に男性は毎晩のように金縛りに会うのだが、その金縛りの最中、必ず見るのは自宅の2階階段から降りてきて、自分の部屋の扉の前まで来ている福助人形だったのだ・・・だがこの家は母親の実家ではなく、福助人形など2階にあるはずも無かったが、毎晩始めてみた福助よりかなり小さな福助が階段を下りて廊下を歩き、そして部屋の前でじっと機会を伺っている・・・そんな光景をまるで福助の目線のように見ていたのである。

ある日意を決した男性はついに2階の押入れを探し始め、その隅に置かれた箱の中から、いつも金縛りになると歩いてきていたものと同じ大きさの福助人形を発見するのだが、片付けた祖母でさえ忘れていたこの福助人形を、どうして男性が知っていたか皆が首をかしげることになったのである。

その後この福助人形は父親の知り合いの寺に預けられるのだが、男性はそれから後も金縛りになると、同じように2階から降りてくる福助人形を感じていた。

この話は単に自分の視覚が・・・だけではすまされない、実際に男性は自身が知るはずも無い福助人形の場所を金縛りで見ていたからだ・・・それも歩いているこの人形の目線が自分の目線と重なっていて、しかも自分の感覚も持っているのである。

だがそうして目線が人形と重なりながら、具体的に福助人形が部屋へ入ってきたことは1度も無く、必ず外で何かの機会を伺っていることが分かったと言うのだ。

自分の体は動かない、絶対絶命の危機だ・・・しかし何度も同じ恐怖にさらされた男性は、福助は「何か」があって部屋には入れないことが漠然と分かってくる。

今夜はこれまで・・・。
この話は長いので、4章に渡って記載されることになると思いますが、冒頭の女性、福助人形の男性・・・2人とも現在幸せに暮らしている。
そしてひどく怖かったし辛かったが、今は金縛りを経験できて良かったと思う・・・と話している。

2章、金縛りの正体、3章、金縛りが持つ可能性・・・できれば最後までお読みいただけると有難いが・・・。



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