第二章・6「上海」

緒長等が上海・浦東空港に到着したのはまだ日没前の事だったが、空港に降り立った2人を徐黄王の会社の人間が迎え、彼らは上海の高級ホテルへと案内された。

「会長(徐黄王)は午後7時30分にこちらへ着きます」
「それまでここでおくつろぎください」
「市内を散歩されても結構ですが、以前ほど治安は安定していませんので、できるだけ外出はお控えください」

徐の秘書らしい女性は流暢な日本語でそう言うと、ホテルの部屋を出て行った。

「そうか、以前より治安は悪くなっているのか」
「吉田さん、見てください、前は凄い勢いで建設が進んでいた浦東の工事が今は停まっているように感じませんか・・・」
「本当ですね、重機が全て止まっている」

緒長と吉田はすっかり空気が変わってしまった上海の夕焼けを眺めながら、どこかで大きな不安を憶えたのだった。

徐黄王が緒長等が待つホテルに着いたのは予定の時間より少し早かったようだ。
7時10分頃くだんの秘書らしき女性が2人を迎えに来て、このホテルの31階のレストランに案内し、そこには以前より少しやつれた感じの徐と、隣りにはやはり孫嶺威が立っていた。

「ここへ来たと言う事は久世山さんに会ったと言う事あるな・・・」
「話は全てお伺い致しました」
「覇王、引き受けてくれる有るか?」
「今日は具体的なお話をお伺いしようと思って来ました」
「見ての通りあるよ」
「外は危険で一人歩きはできない、開発は止まって共産党の締め付けは厳しいある」
「ここでも大声は出してはいけないあるよ」

料理が運ばれ、席に着いた緒長と吉田に徐は開口一番、共産党の監視が厳しくなっている事を告げた。

「随分と大変な事になっているようですね」
「中国の経済はスタグレーションの末期、分離崩壊したあるよ」
「分離崩壊?」
「そっ、共産党が表の経済で、この経済は裏になっている一般人民の労働で成り立ってたあるが、表の経済が富を吸い上げすぎてデフレーションになり、裏が金利に追われて凄いインフレになったある」

「それで数の多い裏経済が壊れてしまったのですね」
「私もそう有るが、今では中国の富裕層はみんな資産を海外に移してるある」
「それで余計に中国国内の資産は空洞化し、インフレから生活が壊れた一般層は暴動しかできる事が無くなったある」

「人民解放軍はどうなんですか」
「原理はみな同じあるよ」
「士官クラス以上は富裕層、一般の兵士は金に追われるある」
「これは警察も同じことある」
「ではそちらでも離反が始まってるんですか」
「今はまだ軍規で抑えているあるが、一般兵士の家族が破綻し始めると、先は解らなくなるある」

「崩壊はいつ頃から始まりますか」
「私、今は暴動を起こさせないようにしてるある」
「それは何故ですか」
「民衆の不満を最大限まで溜め込む為と、共産党に協力して監視の目を欺く為ある」
「これは孫先生の作戦ある」

「なるほど、ではいつ頃ピークになる、いやピークにするおつもりですか」
「半年後か、それより延びても2ヵ月後には、私もきっと抑えきれなくなるある」
「10月か、今年一杯ですね・・・」
「それとこれから暫く、私と緒長さん会わない方が良いある」
「お互いの身の安全と言う事ですね」

「孫先生と緑子さん、意識を通じて話せるあるから、これからはお二人を通して連絡を取り合う、宜しいか?」
「解りました」
「今は、共産党だけでなくアメリカも監視してるあるよ」
「なるほど・・・」
「では私は帰ったら早速議会を召集し、沖縄の意見を集約する事にします」
「緒長さん、今は全て緒長さんにかかってるある」
「中国人民を助けると思って、どうか、どうかお願いある」

徐黄王は両手を取って緒長の手を握りしめた。

上海は江蘇省・浙江省・広東系の人口を多く有し、これらの出身者は比較的政治や事業面での思想が強い。
現在の台湾などにも多くの浙江省出身者が存在し、自由闊達な考え方がある。
三代前の中国指導者「江沢民」はこの上海の出身であり、「胡錦濤」(こきんとう)の次に国家指導者となった「習近兵」(しゅう・きんぺい)は政治浄化と称して上海出身の江沢民の派閥を共産党から粛清していった。

この為、上海は「習近兵」体制を潜在的に快く思っていない部分があり、これが中国崩壊時には香港、上海、天安門と言う暴動の流れに繋がって行ったが、上海経済の7%を握る「徐黄王」、同じく上海の財閥「朱栄陽」「張貴一族」らの結束がこれらの背景に存在していた。

上海は元々から経済と革命の都市だったのである。




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