第二章・9「台湾の女」

人を支配するに最も容易な方法は「恐怖」で有り、この恐怖の深さに拠って人の支配の度合いは測られるが、恐怖の深さの一つの方向は「数」である。

1対1で力がほぼ均衡している場合、その双方が相手を支配できない。
しかしどちらか一方に味方がいる場合、最終的に味方がいる方の勝利は始めから決まっている。
これが支配の法則だが、その一方武器の質もまた味方に匹敵する数の法則であり、人間は予め自身が勝てるか否かを測り、勝てる可能性の無い者には抵抗せず、勝てる見込みが有る者には逆らう。

また恐怖の深さの方向には数以外に恐怖の質が有り、残虐性もまた支配の大きな要素だが、この支配は意外に脆く、最後は数の恐怖に蹴散らされる。
70年続いた中国共産党の「残虐性」に拠る支配が、ついに数の支配に蹴散らされる日が近付いていた。

11月初めに行われたアメリカ合衆国大統領選挙の流れは、ほぼマリア・クレイトン上院議員が優勢で、共和党の候補もおそらくこれには及ばないだろうと言う勢いだった。
従って初めての黒人大統領だったバラカ・オバマの再選は阻止され、次期合衆国大統領は初の女性大統領となる事が確実な情勢だった。

そしてこうなるとチャンスと合理性を重んじるアメリカ社会と言うのは非情なもので、皆が一挙に新しい大統領に向かって集まり始め、現在もまだ大統領で有るにも拘らず、バラカ・オバマは過去の人になってしまうのだった。
国務省、国防総省、中央情報局が知りえる情報はオバマ大統領には勿論伝えられるが、それ以上に次期大統領の所には情報の共有が多くなり、次期大統領の周辺はこうした環境を基盤として一般教書演説を組み立てるのである。

マリア・クレイトンは既に12月の初めには密約の形で権限を行使し始めていて、この中の最も大きな関心事は変わり行く中国情勢だった。
だがアメリカ中央情報局「CIA」の情報は独立した沖縄、現在は琉球国だが、ここの緒長から流れてくる情報に比べると薄い。

緒長は琉球国内にいながらどうして詳細な中国情勢を知り得るのか、そこが一番の問題だった。
情報と言うのは広く深く知ってる者ほど有利になる。
琉球などと言う小さな行政区が拗くれた(こじくれた)ような小国が合衆国を超えて情報を持ち、主導権を握るのは許される事ではない。

CIAは緒長琉球国元首の周囲にも調査網を張っていたが、ここで浮上してくるのが久世山緑子だった。
この盲目の女子大生が何らかのキーワードになっている事は確かなのだが、彼女とて琉球から出ている形跡は無く、旧沖縄県庁舎、現在の沖縄国会議事堂と元首官邸に仕掛けた盗聴器によって、ようやく緑子の特殊能力を疑い始めたマリア・クレイトンは何とか彼女を合衆国のものに出来ないかを検討し始める。

元々緑子のような特殊能力者の軍事使用は第一次世界大戦から存在し、その始まりは古代の占いに端を発して研究されてきた経緯が有り、合衆国は勿論、ロシアやイギリス、中国でも同様の研究がされているが、どこからどこまでこうした特殊能力者の軍事、政治干渉が可能なのか、その実態は各国とも不明である。

更には沖縄独立時に経済政策を打ち出したドイツのケビン・シュナイダーの能力は傑出している。
これも是非ともマリア・クレイトン政権には欲しい逸材だった。

マリア・クレイトンと言う女性はかつてアメリカ国防長官だった「キャスパー・ウィラード・ワインバーガー」に似たところが有った。
水が確実に低い所に流れる、その性質の非情さを知っている者とでも言おうか、極端な現実主義で、その現実が指し示す所に対しての妥協が無い。
最良の方策にはそれが如何なる犠牲を払うものでも躊躇が無いようなところが有った。

12月13日、突然久世山緑子は行方不明になる。
吉田からの連絡では大学も欠席し、久世山宗弘が入院している病院にも現れていないらしく、自宅にも戻っていないとの事だった。

「誰かに拉致されたのかも知れない」
「それは政治的な部分でか、それともプラーベートと言う意味か?」
「どちらも有り得る」

電話の向うで息を弾ませている吉田だったが、それ以上に緒長に取っては緑子がいないと徐が指定してくる「時期」が解らなくなる。
場合によっては計画の全てが水泡に帰しかねない非常事態だった。

一方その頃日本人とアメリカ人のハーフの女2人に拉致された緑子は、ハワイ経由でワシントンに連行されていたが、その様子は逐一上海にいる孫嶺威のところに意識として送られていた。

12月15日、緒長のところへ台湾の張恵姫と言う女性が面会を求めてきたが、何故か元首官邸ではなく、外で話したいとの事だったので、緒長は官邸近くの公園で待ち合わせる事にした。

「緒長元首ですね」
「そうですが、あなたは?」
「徐黄王会長からのご伝言です」

彼女は意外にも流暢な日本語と共に緒長に会釈した。

「まず最初に元首官邸、議事堂には全て盗聴器が仕組まれています」
「それと久世山緑子さんは、アメリカによって拉致され、今ワシントンにいます」
「徐会長のところには孫嶺威顧問から逐次報告が入っていますが、国際電話、携帯は全てアメリカに傍受されています」
「それで何人かの人を介して私が直接ここへ派遣されました」

「何と言う事だ、彼女は無事なのですか」
「今のところ危害は加えられていません」
「それで私はどうすれば良いと徐さんは仰っているのですか」
「すぐにもワシントンに飛んで、マリア・クレイトンに会ってください」
「それでアメリカが緑子さんを返してくれるだろうか」
「同じ力の者がもう一人いるとアメリカに伝えて下さい」
「後は孫顧問と緑子さん自身が自分を助けます」
「急いでください」

張恵姫はそれだけ言うと、また軽く会釈をして去って行ったが、その身のこなしと言い流暢な日本語と言い、どこかでは只者ではない雰囲気だった。











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